猫とタバコ

今回のテーマは、猫とタバコ。
タバコを吸う家族がいる家庭の猫には、どんなリスクがあるのか見てみましょう。

「タバコは体に良くない」は、みなさん知っていると思います。それは、他の動物にとっても同じことです。
下の表を見てわかるように、一般的に副流煙に含まれる成分は、主流煙よりも多いと言われています。

 ニコチン  タール  一酸化炭素  発がん性物質 NNAL * 
 主流煙   0.46 10.2 31.4 80
 副流煙 1.27 34.5 148.0 800
                    *NNAL:4-(Nメチル-N-ニトロソアミノ)-1-(3-ピリジル)-1-ブタノン (1)

タバコの煙を吸い込むことで、どんな害があるのか?
人間よりも体の小さな猫にとって、少量の煙でも害がありそうです。
肺炎や気管支炎などの呼吸器に悪そうなのは想像できますが、他にも害があるのかまとめてみました。

タバコの煙の成分とその反応

タバコに含まれるニコチンは、人間にとって多幸感を生み出すドパミンの分泌を促すため、落ち着いた、ストレスが取れたと感じさせることができます。このニコチンには中毒性があるため、喫煙はなかなかやめられません。この他にタバコに含まれている成分として、タールや発がん性物質があります。
猫の副流煙による健康被害は、大きく分けて4つあります。

1,喘息
吸い込まれた煙に対するアレルギー反応で、咳を伴う喘息症状がでることがあります。
慢性的な気管支炎によって発生する喘息では、ステロイドの吸入が必要になることがありますが、完治することが難しく、吸入もしくはステロイドの内服を続けることで、症状を抑えることになります。

2,皮膚アレルギー
頭部を中心にかゆみが出ることがわかっています。煙が鼻や目から吸収されることに起因され、重度の場合はステロイド等の内服薬が必要になります。

3,腫瘍
最も深刻なのが、悪性腫瘍の発生リスクが高まることです。中でも、扁平上皮癌とリンパ腫のデータが存在していて、どちらも根治が難しい腫瘍です。飼い主さんが禁煙することで、腫瘍の発生リスクを抑えることができます。

4,その他
喫煙家庭の猫20匹と非喫煙家庭の猫20匹の血液検査結果で、血中網状赤血球、クレアチニン、血糖値が喫煙家庭の猫で高く、その他炎症誘発性サイトカインが高くなることがわかっています。タバコの有害物質による酸化ストレスが影響している可能性が示唆されています。(2)

リスクはどこまでわかっているの?

そもそも、犬猫がタバコを吸うと体に吸収されているのか?という問いに対して、喫煙家庭の犬猫の尿中ニコチン濃度を測定した報告があります。

・犬・・・喫煙家庭の犬30匹、非喫煙家庭の犬33匹の尿を比較。
 尿中ニコチンは1.97倍、喫煙家庭の犬の方が高く、タバコの本数をグラフにすると直線的に尿中ニコチンが増加し、タバコの本数と比例することがわかっています。(3)

・猫・・・喫煙家庭の猫19匹、非喫煙家庭41匹の尿を比較。
 尿中ニコチンは14.4倍、NNALは3.1倍、喫煙家庭の猫が高かったとデータがありました。(4)

また、犬では、毛の成分としてニコチンが含まれるようになるため(5)、健康な被毛ではなくなってしまう可能性もあります。

これらのデータから、人間の喫煙によって、犬猫の体内にも副流煙の成分が吸収されていることが証明されています。

猫の腫瘍

・リンパ腫
発生リスクが2.4倍に上昇し、5年以上副流煙に暴露されると3.2倍になります(6)。ただ、消化器型リンパ腫の発生には影響がないようです。(7)

・扁平上皮癌
扁平上皮癌を患った猫の遺伝子に含まれるp53を調べた報告では、副流煙に5年以上暴露された猫は、7倍発現しており、発がん性物質による変異の可能性があるとしています。(8)

扁平上皮癌については、古いデータですが、2004年に報告されている有名なものがあります。
そこでの扁平上皮癌の発生リスクとして、

 ・ノミ取り首輪をつけるとリスクが5倍
 ・ドライフード vs 缶詰  缶詰の方がリスクが5倍(特にマグロの缶詰)
 ・タバコはリスクが2倍

とされていました。(9)
20年以上前の環境での評価なので、ノミ取り首輪とフードについては、今の状況に当てはめるのはちょっと危険かもしれません。(ちなみに、なぜマグロの缶詰なのかは検討されていません…)

加熱式・電子タバコは?

アイコスなどに代表される加熱式タバコは、タバコの葉を燃やさずに加熱をして発生した水蒸気を吸入するものです。タバコの葉を使っているため、ニコチンや有害物質は含まれていますが、従来のタバコの90%以上低減されているそうです。(アイコスHPより)
電子タバコは、専用のカートリッジに含まれるリキッドを加熱して発生した水蒸気を吸入するものです。日本国内ではこのリキッドにニコチンは含まれていないそうですが、リキッドにはプロピレングリコールやグリセリンが含まれていて、猫ではこれらの成分は腎臓に毒性があるとされているため、リスクがありそうです。

これらの新しいタバコがもたらす犬猫への被害については、まだ報告がなく、あくまでも推測、リスクはゼロではないという表現にとどまります。

防ぐためにはどうしたらいい?

「煙を吸わせない」ということが必要なので、「飼い主が禁煙をする」が最良だと思います。


「喫煙後の飼い主の指を犬猫が舐めた場合、どうなるのか?」という問いに対しては、現状では不明だそうです。 「リスクを下げるためにはどうしたらよいか?」「リスクをゼロにするためにはどうしたらよいか?」と考えてみるとその方法は色々ありそうですが、禁煙に勝るものは無いと思われます。

まとめ

犬猫がタバコを吸うことで、人間のように多幸感を得られるかどうかは、わかっていません。

犬猫がタバコの吸い殻を誤食してしまい、ニコチン中毒を起こすこともあります。小さな体だからこそ少量のタバコの煙に対する反応も敏感で、飼い主が気付かないうちに、その体を蝕んでしまっている可能性があるから、


   「少しでも長生きしてもらいたい」

そのためには、ニコチンや発がん物質の摂取は避けたいものです。

参考文献
(1)https://www.health-net.or.jp/tobacco_archive/risk/rs120000.html
(2) Demirtas B, Yanar K, Koenhemsi L, Erozkan Dusak N, Guzel O, Akdogan Kaymaz A. Tobacco smoke induces oxidative stress and alters pro-inflammatory cytokines and some trace elements in healthy indoor cats. Vet Res Forum. 2023;14(6):301-308. doi: 10.30466/vrf.2022.545424.3357. Epub 2023 Jun 5. PMID: 37383655; PMCID: PMC10298841.
(3) Bertone-Johnson ER, Procter-Gray E, Gollenberg AL, Ryan MB, Barber LG. Environmental tobacco smoke and canine urinary cotinine level. Environ Res. 2008 Mar;106(3):361-4. doi: 10.1016/j.envres.2007.09.007. Epub 2007 Oct 22. PMID: 17950271; PMCID: PMC2297465.
(4) McNiel EA, Carmella SG, Heath LA, Bliss RL, Le KA, Hecht SS. Urinary biomarkers to assess exposure of cats to environmental tobacco smoke. Am J Vet Res. 2007 Apr;68(4):349-53. doi: 10.2460/ajvr.68.4.349. PMID: 17397288.
(5) Knottenbelt CM, Bawazeer S, Hammond J, Mellor D, Watson DG. Nicotine hair concentrations in dogs exposed to environmental tobacco smoke: a pilot study. J Small Anim Pract. 2012 Nov;53(11):623-6. doi: 10.1111/j.1748-5827.2012.01284.x. Epub 2012 Oct 1. PMID: 23020087.
(6) Bertone ER, Snyder LA, Moore AS. Environmental tobacco smoke and risk of malignant lymphoma in pet cats. Am J Epidemiol. 2002 Aug 1;156(3):268-73. doi: 10.1093/aje/kwf044. PMID: 12142262.
(7) Smith V, Knottenbelt C, Watson D, Mellor DJ, Guillen Martinez A, Philp H, Keegan S, Marrington M, Giannasi C, Cave T, McBrearty AR. Hair nicotine concentration of cats with gastrointestinal lymphoma and unaffected control cases. Vet Rec. 2020 Apr 4;186(13):414. doi: 10.1136/vr.105564. Epub 2020 Jan 23. PMID: 31974267.
(8) Snyder LA, Bertone ER, Jakowski RM, Dooner MS, Jennings-Ritchie J, Moore AS. p53 expression and environmental tobacco smoke exposure in feline oral squamous cell carcinoma. Vet Pathol. 2004 May;41(3):209-14. doi: 10.1354/vp.41-3-209. PMID: 15133168.
(9) Bertone ER, Snyder LA, Moore AS. Environmental and lifestyle risk factors for oral squamous cell carcinoma in domestic cats. J Vet Intern Med. 2003 Jul-Aug;17(4):557-62. PMID: 12892308.

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